院長ブログ

いびき、無呼吸はありませんか?

2024/02/02

 参考資料:SASnet(フクダ電子)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病気をご存じですか?
その名前の通り、睡眠中に一時的な
無呼吸状態が繰り返し起こる病気で、さまざまな合併症を引き起こしたり、良質な睡眠が得られないことから交通事故などの原因になることがわかっています。

睡眠と健康の関係

(1)睡眠の役割

私たちは1日24時間のうち約8時間眠るサイクルで生活をしています。つまり、人生の約1/3は眠っていることになります。

睡眠には、心身の疲労を回復する働きがあります。そのため、睡眠が十分にとれない状態が続くと、「眠い」「疲れた」と感じるだけでなく、心身にさまざまな悪影響を及ぼすようになります。

疲労をリセットするためには、睡眠時間だけではなく睡眠の質も重要です。「8時間以上寝たはずなのに、なぜ眠いのだろう……」という人は、睡眠時間ではなく、睡眠の質が低下している可能性があります。

(2)睡眠が及ぼす全身への影響

睡眠時間が短かったり、睡眠の質が低下していたりすると、やる気が起きない、記憶力が低下する、ホルモン分泌が乱れて食欲が増す(肥満)、血圧や血糖値が上昇する、脂質異常になりやすいなどの影響が出ることがわかっています。

さらに睡眠中に無呼吸状態が繰り返されると、体に取り込まれる酸素の量が少なくなってさまざまな臓器に障害をもたらします。

SASってなに?

SASは、睡眠に関係する呼吸障害のひとつで、SAS(Sleep Apnea Syndrome)とも呼ばれています。

SASには、大きくわけて閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と、中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)があります。ともに眠っているときに無呼吸や低呼吸状態になる病気ですが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)はいびきをかくことが多いのが特徴です。
一般的にSASといえば、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を指します。

SASの人は日中に過度な眠気に襲われることがあり、居眠り運転による大きな事故も数多く報告されています。タクシーやトラックの運転手、飛行機や船の操縦を仕事にしている人はもちろん、日常生活で車を運転している人にとっても生命に関わる重大な問題です。

また、仕事での重要な商談や会議中、学校での授業中などに強い眠気に襲われたり、居眠りをしてしまうことがあります。仕事や勉強への意欲も低下し、周囲からは「なまけもの」「だらしない人間」とみられてしまい、本人への不本意な評価とともに、労働の生産性の低下など社会的な影響も少なくありません。

SASは患者さんの生命に関わる病気であり、社会生活を送るうえでも予防や早期発見、治療が必要な病気です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断は、患者さんの自覚症状、家族などによる患者さんの睡眠中の状態や合併している病気などをチェックしたうえで、スクリーニング検査、精密検査を行います。

保険診療によるSAS診断の流れ

参考:令和2年度 官報・厚生労働省通知
  • ※ AHI:1時間あたりの睡眠中の無呼吸、低呼吸の回数を表し、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index)

問診

SASは、いびき、日中の過度な眠気をはじめ、睡眠中の窒息感で目が覚めたり、呼吸が切れ切れで苦しそうな呼吸(あえぎ呼吸)がみられたり、不眠などの自覚症状があります。とくに睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸がある場合は、SASの可能性が疑われます。

また家族からいびきや無呼吸を指摘されて医療機関を受診する人も少なくありません。こうした家族からの情報もSAS診断の重要なポイントとなります。

問診でSASが疑われる人に対してはスクリーニング検査を行います。

問診のみでスクリーニング検査に至らない人でも、生活習慣病などSASのリスクがある人は、生活習慣の改善が必要です。

スクリーニング検査

SASが疑われる場合には、まず自宅で携帯型装置を使ったスクリーニング検査を行います。

この検査は、主に精密検査が必要なSASの可能性がある患者さんを拾い上げるために行われるものです。睡眠中の無呼吸や低呼吸の頻度が高い患者さんは、このスクリーニング検査だけでSASと診断されることがあります。

スクリーニング検査(簡易PSG)

簡易PSG検査はいびきや日中の眠気などがあり、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる患者さんに対して最初に行う検査です。携帯型の装置を就寝時に装着し、睡眠中の呼吸状態や心拍数、酸素飽和度(SpO2)などを調べます。なかには、呼吸運動や体動、心電図など測定できる項目が多い装置もあります。

簡易PSG検査は、自宅で検査ができる点が最大のメリットで、普段の睡眠に近い、リラックスした状態で検査ができます。患者さん自身で検査装置を装着し、普段通りに就寝することで、睡眠中の呼吸状態などを記録します。1回の記録では判断が難しいこともあるため、2〜3晩測定する場合もあります。

入院して行う検査の場合、入院日の調整が難しかったり、検査の待ち期間が長くなったりすることもありますが、簡易PSGによる検査は、装置を医療機関から借りた日の夜から開始できる点もメリットといえるでしょう。

 

精密検査との違い

睡眠中の呼吸状態などを記録することでSASの診断に役立てるのが簡易PSG検査の目的です。そのため、睡眠の質やそのほかの睡眠を障害するものは簡易PSG検査ではわかりません。

簡易PSG検査では、患者さん自身が装着してから起床後に外すまでが記録されるため、実際の睡眠時間はわかりません。そのため、AHIが少なめに出る可能性があります。簡易PSG検査のみでSASと診断されることもありますが、SASを見逃さないために、さらに詳しい検査を行います。

簡易型PSG検査のみでSASと診断されるケース

睡眠障害の原因になる他の病気や高血圧や2型糖尿病などの合併がなく、次の自覚症状などのうち2つ以上が当てはまる場合

  • 大きないびき
  • 家族など本人以外の人が睡眠中の状態をみて無呼吸が確認された
  • 夜間に息苦しさやあえぎがある
  • 高血圧がある

簡易型PSG検査でSASの可能性があり、さらに検査が必要だと判断された場合、入院して終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行います。睡眠の質や呼吸状態、体の動きなどを詳しく調べ、SASかどうかを判断します。

確定診断(入院による精密検査)

スクリーニング検査によってSASの疑いがあり、さらに検査が必要と判断された患者さんに対しては、確定診断のための精密検査を行います。これは自宅で行うスクリーニング検査とは異なり、一般的に、入院して検査を行います。
確定診断(入院による精密検査)へ

確定診断は、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)という検査で睡眠中のさまざまなデータを取り、その結果をもとに医師が診断します。終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)は、睡眠の質や呼吸をみるうえで重要な検査です。

自覚症状がない人のSAS

SAS患者さんのなかには、長年の睡眠習慣により睡眠中のいびきや昼間の眠気、疲労感、不眠など自覚症状がない人もいます。しかし、生活習慣病がある人はSASのリスクが高く、SASの診断と治療を行うことはとても重要です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、一人ひとりの患者さんの状態に応じて選択します。各治療法の適応と特徴を理解して、治療に取り組むことが大切です。

SASの治療法

SASの主な治療法をご紹介します。

(1)持続陽圧呼吸療法(CPAP)

持続陽圧呼吸療法(CPAP)と呼ばれる装置を使った治療で、睡眠時にマスクを装着してそこから空気を送り込むことにより気道が塞がるのを防ぎます。日中の眠気が強い患者さんや中等症〜重症の患者さんに行われます。
CPAP治療へ

(2)口腔内装置(OA)治療

寝ている間にあごが下がって気道が塞がるのを防ぐために、患者さんの口に合うマウスピースを作って就寝時に装着する治療法です。マウスピースをつけることで下あごが固定され、寝ている間に気道が塞がるのを防ぎ、呼吸を楽にします。軽症〜中等症の患者さんやCPAP療法ができない患者さんに対して行います。
マウスピースによる治療はCPAP療法と比べると気道が塞がるのを防ぐ効果は低くなりますが、装置を装着する手間が少ないのがメリットです。いびきに対しても効果があるといわれています。

(3)手術による治療

アデノイド肥大や扁桃肥大が原因で気道が塞がり、睡眠時に呼吸障害が起きている患者さんで、CPAP療法やOA治療ができない場合、手術を行うことがあります。

子どものアデノイド肥大は年齢とともに小さくなるのが一般的ですが、SASの症状がある場合は小さくなるまで待たずに手術を行うことがあります。扁桃肥大も同様です。子どものSASで、アデノイドや扁桃の肥大が原因の場合は、手術が有効な治療といえます。

また、鼻づまりが原因でSASになっている場合で薬による治療で効果がない場合には、手術を検討します。

(4)生活習慣の改善
それぞれの治療と併せてとともに生活習慣を見直し、SASの改善を図りましょう。

減量
肥満が原因のSASに対しては、CPAP療法などの治療と並行して医師等の指導のもと減量を行います。減量することで合併する病気や生活の質(QOL)の改善、心臓や血管の病気リスク低下などのメリットもあります。BMI35以上の高度肥満で、生活指導等による減量が難しい場合は減量手術を行うこともあります。
禁酒
飲酒によってSASが悪化することがあるため、禁酒が推奨されています。
禁煙
喫煙によってSASが悪化することがあるため、禁煙が推奨されています。
睡眠中の体位
仰向けで眠ると重力で気道が塞がりやすくなります。横向きに寝ることで睡眠中の呼吸障害が軽減することがあります。

(5)その他の治療

CPAP療法やOA治療ができない患者さんに対して酸素療法を行うことがあります。ただし、慢性心不全などがある一部の患者さんを除き、SASでの酸素療法は保険適用外となっています。

SASが軽症の場合は、減量や生活習慣の見直しだけで症状が改善することもあります。しかしある程度症状が進んでしまった患者さんは、ひどい眠気のために気力が低下し、減量や生活習慣改善にもなかなか前向きに取り組むことができません。そのような場合は、医師に治療に関して相談してください。

治療によって睡眠の質がよくなると、減量や生活習慣の改善にも前向きに取り組めるようになり、相乗効果が期待できます。


 
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